【読書】:眼の誕生 – カンブリア紀大進化の謎を解く

今回、この本を選んだのは、ちょうどNHKスペシャルでNHK 生命大躍進と言う番組をやっているからである。
この本は、ちょうど、第1集「そして“目”が生まれた」の内容の下敷きになっている本の一つ。

この本の結論は、「光スイッチ説」と言うものの提唱である。もう少し解説すると、地球における生物の進化を紐解いていくと、約5億4300万年前に始まるカンブリア紀に、突如動物の種類・個体数が増加する『カンブリア爆発』と言う現象があったこと(さながら『進化のビッグバン』とも呼ばれている)が分かっているのだが、なぜこの時期に生命が急拡大したのかが分かっていなかった。本書は、その疑問に対して、「この時期に生命が『眼』を獲得する、と言うイベントがあった。(つまり光を受信できるようになった。)これが引き金(スイッチ)となって、動物の爆発的な繁栄につながった」と結論付けるものである。
とまあ、結論から書いてしまうと結構身も蓋もない中身なのだけど、その仮説を提唱するにあたって現代生物学、古生物学、物理(光)学等の知識をフルに活かして迫っているのがすごい。

現代生物学の観点では、「光」があることの意味をまず考える。地球上で光の届かない深海や洞窟内での生物の適応、あるいは特に光満ち溢れる熱帯の昆虫上に見られる色彩などを通して、進化と光が切っても切れない(進化に対する淘汰圧が高い)ことを説明していく。

一方、古生物学の視点では、バージェスなどで発見された非常に状態の良い化石の微構造を電子顕微鏡で調べることで、古代の生物たちが構造色を持つ=古代の生物たちは非常にカラフルな形態をしていたことを明らかにしていく。

さらに、古生物たちの「眼」の構造にも迫っていく。カンブリア紀に地球を支配していた動物はそのほとんどが節足動物門であり、そのほとんどが複眼構造を持つのだが、その構造も電子顕微鏡で丹念に追っていく。三葉虫の複眼が方解石で構成されていたなんて僕は知らなかった。

また、進化速度を実際に計算した結果も載っているのも面白い。例えば、脊索動物門の持つカメラ眼構造は、初期のただの感光細胞から魚類の持つ程度のカメラ眼構造に進化するまで、およそ365,000世代と見積もっている。一世代一年とすれば、眼の複雑な進化は50万年もかからずに進化できるのだ。

これらのような丹念な観察から、最終的に光スイッチ説にたどり着く壮大な話は読んでいてワクワク感を覚える。また、本書の中に具体例として挙がってくる動物たちも面白い。グソクムシなど、日本で断食しているダイオウグソクムシがブームになるよりずっと前に取り上げられていたのだな、とびっくりする。カンブリア紀の動物たち、アノマロカリスに始まりオパビニアやハルキゲニアなど、奇妙な生物群を見るのもとても面白い。

なお、この本では最後に一つに疑問を残す。『何が眼の進化の引き金となったのですか』である。この本では、銀河系に話が飛んだり海の透明化に話が飛んだり、今一つこの疑問は解決されていない。僕が以前読んだ凍った地球 – スノーボールアースと生命進化の物語に出てくるアースボール仮説も可能性の一つとして挙げられている(が残念ながら、アースボール仮説とカンブリア爆発とではタイムラグが大きく、ここを埋める説明ができない)。
で、今回のNHKスペシャルではロドプシンと言う光を受容する遺伝子が、植物から動物へジャンプした説を提案している。「じゃあ、なぜこの時期に遺伝子のジャンプが起こったの?」と言う疑問を持ってしまうと疑問の連鎖の中に沈んでしまうのだけど、ここを追求するのもまた面白いだろうなあと思った。

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