COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount 簡単なレビュー
待望のフジXマウントの電子接点に対応するCOSINA Voigtlanderレンズ、NOKTON 35mm F1.2 X-mountが発売になったので、さっそくレビュー。
使用カメラボディはX-T2。
なお、使用前に
コシナ、Xマウント用フォクトレンダー第1弾「NOKTON 35mm F1.2」を8月に発売。
にある通り、
[1] 絞り値の表示をT値からF値に設定
【メニュー】→【セットアップ】→【表示設定】→【シネマレンズ使用時の絞り単位】→【F値】
[2] 被写界深度表示をフィルム基準に変更
【メニュー】→【フォーカス設定】→【被写界深度スケール】→【フィルム】
に変更しておいた方がいいらしい。
[1]を【T値】にしておくと、開放でT1.3と表示される。[2]は【ピクセル基準】にしておいてもピントの合う範囲の表示が狭くなるだけで実用上はあまり問題なさそうに思う。
その他、
[+α] シャッター方式をM+Eにする
【メニュー】→【撮影設定】→【シャッター方式】→【MS メカニカル + ES電子】
にしておかないと、メカニカルシャッターが1/8000まであってもF1.2ではすぐ露出オーバーになるので電子シャッターを補助的に使うようにしておいた方がいい。
あと、使用してかなり最初に気づいたが
・ピントリングの感触が独特。MF特有のトルク感はあるが、普通のMFレンズにあるいかにもグリースの粘りの感じがない。グリグリ、という感触ではなくサラサラ、とした感触。これはVoigtlanderの割と新しいレンズのCOLOR-SKOPAR vintage line 21mm F3.5と比べても違う。
で、しばらくいじっていて気付いたが上記の設定にもあるとおり、このレンズはピント位置(距離)情報を電子接点でボディと通信している。ピントリングを動かすとファインダー内の距離スケールが連動して動くし、X-Pro3をお借りして装着してみたらピントリングの移動に合わせてブライトフレームの位置が連動した。と言うことは、ピントリング内に距離エンコーダが入っていて、おそらくグリスは封入されてないんじゃないか、と言うこと。なので製造の緻密さでしっかりトルクを出す一方で、グリスの粘り感がないのじゃないかと思う。
・ピントリングがオーバーインフまで回る。普通のMFレンズはピントリングを回しきったところが無限遠なのだが、このレンズは無限遠の少し先まで回るので、遠景を撮影するときに無頓着にピントリングを回すのではなく、ちゃんとピント合わせをしないといけない。この辺は上記と同じく距離エンコーダが入っていたりする関係なのだろうか? 正直、MFレンズなので回しきったら無限遠の方が操作は楽なのだが…。
【2021.11.28追記】
グリスの件については
https://www.cosina.co.jp/voigtlander/x-mount/nokton-35mm-f1-2/に
高い精度で加工・調整された総金属製ヘリコイドユニットと、適度なトルクを生み出す高品質グリースの採用により、滑らかな操作感覚のフォーカシングを実現。微妙なピント調整を可能にしています。
とあるのでグリス使っているみたいです。高品質だからか、粘り気感はほとんどないけどね。
【2021.11.28追記ここまで】
また、今まではほぼ同じスペックの7artisans 35mm F1.2を使用していたので、COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mountとの違いをレンズ構成図から先に見ておく。
7artisans 35mm F1.2については、
http://www.stkb.jp/shopdetail/000000001162/より引用。
端的に言えばエルノスター型の光学系で一番後ろのレンズを三枚玉にした、と言う感じ。ここではゾナー系レンズとして説明。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mountについては、
https://www.cosina.co.jp/voigtlander/x-mount/nokton-35mm-f1-2/より引用。
端的に言えばダブルガウス型光学系(プラナー光学系)で絞りの前後に一枚ずつ補正レンズが入っている感じ。
光学系で見ると両者は全く異なることになるけど、大雑把に両者の光学系の特徴を書くと
ゾナー光学系:
メリット
■ 明るいレンズ(F2未満)を作れる
■ 貼り合わせレンズを使うことでレンズと空気の境界面を減らし、レンズコーティングの技術の低かった時代にはフレア・ゴーストの少ないレンズを作れた(このレンズに関しては張り合わせじゃないけど)
デメリット
■ バックフォーカスが取れないので、一眼レフ用標準レンズとして作るのは無理だった(ので一眼レフ用中望遠レンズの一部としてしか生き残らなかった)
ダブルガウス光学系:
メリット
■ 明るいレンズ(F2未満)を作れる
■ ゾナー光学系に比べるとバックフォーカスを取れるので、一眼レフ用標準レンズとして作ることが可能。
デメリット
■ レンズと空気の接合面が多いのでレンズコーティングの技術の低かった時代にはフレア・ゴーストを低減するのが困難だった(いまではほぼ問題ではない)
と言う感じ。ミラーレスの時代になり、バックフォーカスの問題がなくなったので7artisans 35mm F1.2はゾナー光学系にしたというところが面白い。一方でコシナは古典的と言うかダブルガウスに拘ったまま明るくしたというのが面白い。
いずれにせよ、現代的なF1.4以下の明るい超高性能レンズの場合、さらに発展してダブルガウス光学系の前後に補正レンズのための凸メニスカスを多数配置してデカ重だけど高性能、なんてのが多いのでそれに比べれば開放では収差を許容して絞りによる描写の変化を楽しむことが主体のレンズだということが(両者とも)わかるかな。
閑話休題。まず、外観や操作感から。
外観は意外と平凡な印象。XF35mmF2あたりとパッと見は違いに気づかない人がいるかもしれない。しっとりとした色合いの黒がボディによくマッチしているが、あまり主張はない。とはいえ、よく見ていけば距離指標などがしっかり掘り込みで美しいことには気づくのだが。
操作感は素晴らしいの一言。ピントリングもややサラサラした上質な操作感だし、絞りリングも適度なトルク、適度なクリック感が素敵。ここ最近は7artisans 35mm F1.2を使っていたので、もちろんこっちも操作感はMFレンズとして決して悪くはないのだが段違いの心地よさを感じてしまった。特に、デクリックな絞りに半ばあきらめの境地にあった中で、絞りリングのクリック感が心地よい。やっぱ写真用レンズは絞りリングにクリック感がないと。
今のところは操作に慣れていない点として、絞りを変更するときに思わずEVFから一旦目を離して絞りの数字を直接確認してしまう。今まで電子接点のないMFレンズを使っていたので完全にお作法化していて、このレンズはファインダー内にちゃんと絞り値が出ていることにまだ馴染まないのだ。まあ、そのうち馴染むだろうけど。
フィルターは特につけるつもりはないけど、特殊効果用フィルタとしてC-PLとIR76を。
出来ればZeiss POLが欲しかったけど46mm径のはなかった。
赤外線フィルターは結局レンズで想定している波長域を使うわけではなく、解像が落ちるので高価な日本製を買う必要はないと考えている。今回はIR72ではなくIR76にしてみた。このレンズは開放F1.2なので赤外線フィルタをつけても手持ち撮影ができる。
あと、フードも。
装着するとかっこいいんだが、C-PLフィルタと併用するとレンズフードがグルグル回ってイマイチなので今はいったん外している。将来的に、C-PLの方をつけっ放しにするか、フードの方をつけっ放しにするか悩むところ。
せっかくなので無駄に広角フードも買ってしまった。フード効果は極端に落ちるが、装着した時はこっちのがかっこよい。
この水平型は買ったけどまだ届いていない。
おまけで、レンズキャップ。
フォクトレンダーの46mmレンズキャップは現時点で終売しているので、ニコンのレンズキャップを使っている。キャップはわりかし落とすので。
と言うところで、描写感や使い勝手のレビュー。
今回は、今まで手持ちしていたほぼ同じスペックの7artisans 35mm F1.2と、おまけでsmc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limitedとの違いも一部書いておく。
まず、周辺減光について。jpg撮って出しだと周辺減光がわずかにある感じだけど、RAWをAdobe CAMERA RAWでストレート現像してPhotoshopで保存するとはっきりと周辺減光がある。カメラ内の電子補正がよく効かせてあるのだなあと分かる例だ。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F1.2
jpg撮ってだし。周辺減光はわずかにあるがあまり気にならない。が…
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount Adobe CAMEREA RAW F1.2
これがAdobe CAMEREA RAWで現像するとこうなる。Adobe CAMEREA RAWってレンズプロファイル自動適用で周辺減光など撮ってだしと同じように補正されるものだとばかり思っていたが、このレンズにはまだ対応していないのだろうか…。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount Adobe CAMEREA RAW F1.4
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount Adobe CAMEREA RAW F2
減光範囲は四隅にかなり追いやられるが相変わらず周辺減光はしっかりわかる。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount Adobe CAMEREA RAW F2.8
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount Adobe CAMEREA RAW F4
完全に周辺減光が消えたわけではないがここまで行けば気にならないだろう。
次に、近接時の描写について。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F1.2
ssが妙に遅いのはCPLフィルターつけてたことを忘れてたから。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F2.8
ラーメンの具材では必ずしもピント位置がよく撮れていないので、丼の縁の描写なども参考にしてほしい。F1.2では、ピント面の乗りはCOSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mountに若干軍配が上がる。ボケの素性の良さは甲乙つけがたい。いっそのこと開放は7artisans 35mm F1.2の方が画面全体の緩さ、ボケの感じでは相性が取れていていいくらいかもしれない。F2.8ではCOSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mountの方がかなり引き締まる(と言うか、7artisans 35mm F1.2の方は絞り指標をF2.8にしたはずだが明らかにF2.8よりは開いたボケ具合だ。この辺は7artisans 35mm F1.2は大雑把だろう)。
smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited F1.8
おまけでsmc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limitedも。間違えて焦点距離設定35mmのまま撮影してしまった。このレンズ、ペンタの一眼レフに載せるとこの焦点距離明るさの割にコンパクトなのだが、さすがにフジに装着するとマウントアダプタの重さやら本来フルサイズ用でAPS-Cサイズ専用ではないのでかなり大きく重くなる。
しかし描写は恐ろしく素晴らしい。ボディ内でレンズ内の補正なんか何もいらないレベルで優秀。ついでに言うと、フルサイズ用のレンズなので上記2本のレンズと比べると周辺光量の豊かさも全然違う。
これでこのレンズはF4ぐらいまで絞るとカリカリの描写になるので、これはこれで優秀なレンズ。早くPENTAX K-3 mkIII買って使いまくりたいなあ。
次に、中景の描写。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F1.2
被写体位置まで2mぐらい。開放でもわりかしよく解像していると思う。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F5.6
ここまで絞れば解像も文句なしだが、F1.2の浮き出てくるような立体感の方が面白いか?
まあまあ遠景の描写。7artisans 35mm F1.2と比較。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F1.2
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F5.6
被写体まで10mぐらい離れてるかな。7artisans 35mm F1.2は開放で盛大にゴーストが。F4でもゴーストは消えず、F5.6でやっと目立たなくなった。この辺はハレ切りやフードである程度対策は出来るとは思うが。あるいはゴーストが出やすい方が面白い写真を作れるととらえるか。一方でCOSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mountはピントの山を探すのが大変。この写真でも若干ピントを外している感じがする。F5.6まで絞ると、周辺部までCOSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mountの方が安定しているようだ。7artisans 35mm F1.2はF5.6でも周辺部が若干流れる。
その他、自由作例。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F1.2
FSクラシッククローム+グレインエフェクトがあるはずなので描写のサンプルにはならないけど、ドピーカンの晴れと言うコンディションなのでこれでss1/32000(ISO200)。
錆びた機械の質感と立体感はいいと思うのだが、こんな被写体でシャッタースピードカンストするので注意。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F1.2
トンボを最近接で撮ろうと、ピントリング回しきってジリジリと近づいていくのが楽しい。トンボが逃げそうで逃げないところでピントが微妙なのを何枚か連射。仕上がりはトンボのお尻が背景に溶けていってしまう感じで面白い。似たような感じでF2まで絞るとトンボの頭まではだいぶくっきりになるだろう。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F1.2
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F2
F2ぐらいまで絞って葉脈がぱっきり写ってる方がいいかな。絞りコントロールで遊べる典型例で楽しい。
COSINA Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount F1.2
コスモスのサンプル写真は5チャンネルの方にあげたけど、レンズの届いた時期がそろそろコスモスの終わりの季節だったので今一つだった。ボケはとてもきれい。